第5章 ー天使の祝福ー
律は袋を受け取っては見たものの不思議そうな顔をしている。
「この前のお礼ッス」
「この前ー?」
「この前、マッサージしてくれたじゃないッスか」
「えー、あれは律が黄瀬ちゃんにマッサージさせてもらったんだからお礼はもらえないよー」
「いいんスよー。オレ、橘っちにマッサージしてもらってすっごく楽になったんだから」
本音を言えば楽になったのはマッサージ以外にも理由があるのだが、口実にしやすかったのがマッサージだったというだけだった。
「だから受け取って?」と困ったように笑って見せれば断るような律ではないことは予想通りだった。
「そっかー、ありがとー。開けてもいいー?」
手だけでどうぞとジェスチャーすると、律は紙袋の中に入っていた小さな箱を取り出した。
箱の中には黄色い液体が入った瓶。
かすかに甘い良い香りがする。
「きれーい。これ、黄瀬ちゃんの匂いがするー」
「さすが橘っち、鋭いッスね!それ、オレとお揃いのフレグランス。ユニセックスだから女のコがつけててもおかしくないよ」
「そうなんだー。こうゆうのつけたことないんだ、ありがとー」
「ちょっとつけてみて」
黄瀬が瓶の蓋を開けようと手を伸ばしたが、それより先に律の手から瓶がなくなっていた。
どこにいったかと思ってみるとフレグランスの瓶はいつの間にか隣で静観していた赤司の手の中にあった。
「橘、こうゆうものを学校でつけるべきではないよ。生徒会としては見過ごせないな。オレが預かっておくよ」
そう言うとブレザーのポケットに入れてしまった。
「赤司っち、そのくらいは見逃してほしいッス〜」
「身内だからといって特別扱いはできないからね」
律は何も言わなかったが悪いことをしてしまったのではないかと不安げに眉を下げているものだから安心させるために、「放課後、部活が終わったら返すから」と微笑んで見せる。
そうすれば「うん!」とすぐにいつもの律に戻るのだから可愛いものである。
黄瀬はというと、「あう〜」と涙を流しながら食堂を後にしたのだった。