第4章 わっしょい
それからも、咲は眠り続けた。
眠ってはいたが時折少しだけ、深海から水面近くに浮上してくるようにぼんやりと覚醒していることはあった。
夢うつつ、可愛らしい少女達の声が聞こえたり、小さな手が自分の体に触れるのを感じていた。
ぼんやりとした覚醒時間が少しずつ少しずつ長くなっていき、そんな状態がしばらく続いた後、やっと咲は目を覚ましたのだった。
「あっ!目が覚めましたか!!」
真っ先に視界に飛び込んできたのは、自分を覗き込む三つの小さな顔。
「よかったぁー!!」
その少女達の声には聞き覚えがあった。
夢うつつに聞いた、あの少女達の声だ。
「しのぶ様を呼んでこなくちゃ――」
少女の内の一人が立ち上がろうとした時、ふすまが開いて、以前水差しで水を飲ませてくれた女性が入ってきた。
「あら、目が覚めましたか」
女性はゆったりと歩いてきて布団の脇に正座をすると、にっこりと微笑んだ。
その美しさにまた見とれてしまいそうになるが、咲は少女達に支えてもらいながらなんとか体を起こすと、女性に訊ねた。
「ここは……?」
今日は、咳き込むこともなく声が出せた。
だが少し掠れている。
「ここは蝶屋敷といいます。そして私は主の胡蝶しのぶ。貴女のお名前は?」
「あ、わ、私は兎田谷蔵 咲と申します」
咲は慌てて名乗り、ペコリと頭を下げようとしたが、その拍子にぐるんと視界が回り、前のめりに布団に倒れ込んでしまいそうになった。