第4章 わっしょい
「さぁ、ゆっくりでいいですからこれを飲んでください」
差し出された水差しと一緒に、まるで美人画から抜け出てきたような女性が視界に飛び込んできた。
咲は一瞬、体の痛みも忘れて見とれてしまう。
美しい微笑み。
何だっけ……以前、おじいちゃんが教えてくれた言葉……。
こういう美しい人のことを「珍魚落雁(ちんぎょらくがん)」って言うんだっけ。
魚が泳ぐのを忘れ、飛んでいた雁が羽ばたくのを忘れてしまうほどの美人、って意味だったような気がする。
まさに今、私が呼吸するのも忘れて見惚れてしまっているように。
水差しで飲ませてもらった水はほんのりと甘くて、それを飲んだら少しだけ体の痛みが楽になったような気がした。
「ここ…は……」
どこですか、と咲は訊ねようとしたが、たったそれだけの言葉を発しただけだというのにドッと疲労の大波が押し寄せて来て、再び布団に伏してしまった。
「貴女は今、大変高い熱が出ています。話しをするだけでも辛いはずです。今はゆっくりと眠ってください」
そう言って彼女は、咲の額にしっとりとした滑らかな手を置いた。
その心地よさに、まるで吸い込まれるようにして咲は再び深い眠りに落ちていったのだった。