第4章 わっしょい
「ひっ!!あぁ…!!あ、あああぁ!!!」
「咲!!」
叫び声を上げる咲の体を抱え上げて走り出したのは、上の兄だった。
「お母さんが……っ!お父さん……っ!おじいちゃんっ……!!」
悲痛な悲鳴に、二人の兄の頬にも涙が伝う。
だがそれよりも、今は逃げることの方が先決だった。
バンッと雨戸を蹴り倒して三人が庭に飛び降りようとした時、母親の時と同じように長兄の背中が突如として裂け血が弾けとんだ。
「う゛っ!!!」
そのまま地面に倒れ込みそうになるのを、長兄は最後の力を振り絞って腕に抱えていた咲の体を放り投げた。
「逃げろっ!!逃げろーっ!!」
「う~ん、コイツもマレチじゃなさそうだなぁ。さっきの母親も違ったし……。残るはあと二人かぁ」
地面に倒れ伏した長兄の背中を、異形の者が踏みつけにする。
「兄さんっ!!」
咲はもう、何が何だか分からなくなってしまい、無我夢中で長兄のもとへと駆け寄ろうとしてしまった。
だがそれを引き止めたのは次兄だった。
「咲!!逃げるんだ!!」
腕を強く引かれて駆け出したが、ほどなくして次兄の姿も闇の中へと消えた。
繋がれた手が離れていく刹那、次兄の声が咲の鼓膜を震わせた。
「お前だけでも……!!お前だけでも逃げ切ってくれ……っ!がっ」
その声を最後に、次兄の声は途絶えた。