第4章 わっしょい
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咲の生家は、いわゆる豪農というやつで、農業だけでなく行商などもしていたためとても裕福な家であった。
祖母は咲が小さい頃に亡くなってしまっていたが、祖父と両親、二人の兄と共に何不自由なく幸せに暮らしていた。
咲は末っ子の女の子だったこともあり、家族全員から目の中に入れても痛くないほどに可愛いがられ、二人の兄とは兄妹喧嘩をしたこともほとんど無いほどに仲が良かった。
幼い咲は、そんな優しい人達に囲まれながら、こんなふうに穏やかな日々がこの先もずっと続いていくものだと思っていた。
だが、そんな日々は突然終わりを告げたのだった。
咲が10歳になったある日の夜、家に鬼が入ってきた。
一家は丁度、そろそろ就寝しようと囲炉裏の火を消したところだった。
残ったのは蝋燭の小さな灯りひとつ。
その灯りがゆらりと揺れて、ふすまの影からぬう、と突然現れた異形の者の姿を浮かび上がらせた。
一家は飛び上がるほど驚いた。