第3章 おはぎと抹茶
咲は顔布を取って、黒文字をおはぎに差し入れる。
柔らかいもち米の弾力を感じて、食べる前から、これは絶対に美味しいだろうと予感させた。
ちなみにこの「黒文字」というのは和菓子を食べる時に使う楊枝のようなもので、その名称も不死川に教えてもらった。
このおはぎは、おそらく不死川の手作りだろう。
毎日とは言わないが、かなりの頻度で作っているということを咲は知っている。
何しろ、いつ来てもおはぎがあるからだ。
近くの町にはおはぎの美味しい老舗和菓子店もあるし、そこで買ってくることもあるのかもしれない。
咲が頬を膨らませておはぎを食べる姿を満足そうに見ながら、不死川も自身の前に置かれたおはぎを口に運ぶ。
口の中いっぱいに広がるあんこの甘味に、先ほどまでの修行の疲れも溶けていくような気がするのだった。
大の男が甘味に夢中になっているなどと知れたら体裁が悪いと思っているため、不死川はおはぎが好物であることは秘密にしている。
しかし先日、鬼殺隊の中でも二番目に嫌いな隊士・竈門炭治郎がそのことを暴露してしまったため、一番目に嫌いな隊士・冨岡義勇にバレてしまったのである。
それ以前から竈門炭治郎のことは気に食わなかったが、そのことで決定的に嫌いになった。