第3章 おはぎと抹茶
不死川邸に到着すると、咲は玄関には向かわずに庭の方へと真っ直ぐに向かった。
と言っても勝手にやっている訳ではない。
不死川からそのように指示されているからだ。
庭に回ると、そこには汗を流しながら木刀を振る不死川の姿があった。
「不死川さん」
咲が声をかけると、不死川はビッと木刀を振り抜いてから、こちらに顔を向けた。
「咲かァ。どうしたァ、何かあったかァ?」
「お届けものに上がりました」
そう言って咲が鞄から小包を取り出すと、手ぬぐいで汗を拭きながら歩いてきた不死川がズンと見下ろすように目の前に立った。
恐らくほとんどの隠、いや隠だけではなく剣士であっても、こんなふうに不死川に目の前で仁王立ちをされたりなどしたら、恐怖で腰を抜かすことだろう。
現に、先輩隠の前田まさお(ゲスメガネ)などは、不死川に怒鳴られて失禁したことがあるほどだ。
だが咲はその様な状況にあって、なんと笑顔を浮かべたのだった。
そして、それはこちらもまた「なんと」と言うべきか、不死川も優しい笑顔を浮かべていた。
「そうかァ。手間かけたな。上がってけェ、茶でも飲んでけ」
「はい」
ポン、と咲の頭に軽く手を置いてから、不死川は縁側に向かって歩きだした。