第3章 おはぎと抹茶
咲を見送ってアオイが戻ってくると、しのぶが柔らかい微笑みを浮かべて待っていた。
「アオイ、ご苦労様でした。とても助かりましたよ」
「いいえ、大したことではありませんので」
そう言って仕事に戻ろうとしたアオイだったが、ちょっと迷ってからしのぶに訊ねた。
「あの子の足は……どうしてあのようなことに?」
「……鬼に喰われたのです」
静かに答えたしのぶの、形の整った眉が悲しげに少し下げられた。
「あの子は稀血なのです。それゆえに襲われてしまった……」
それを聞いて、ガーン、と胸を刺し貫かれたようなショックをアオイは感じた。
(そんな……それじゃああの子は、そんな目に遭いながらも隠として働いていると言うの……?家族を失い、足を失い……不自由な体になってもなお戦おうとしているの……?……なんて、なんて強くて健気な子なのだろうか)
あまりの不憫さに言葉を失っているアオイに、しのぶは言った。
「アオイ、どうかあの子を助けてあげてくださいね」
まるで実の妹を心配するかのようなしのぶの表情を見て、アオイは先ほどまで触れていた白い足の温もりと、硬い木でできた義足の感触を思い出しながら、大きく頷いたのだった。