第22章 番外編 其の参
「どうもそういう訳にもいかないようなのだ。魂が現世にとどまれるのは四十九日までだ。だから俺はもう行かなければならない」
杏寿郎はじっと咲の目を見つめ、それから少し寂しそうな笑顔を浮かべる。
「あちらの世界がどうなっているのかはまだ分からんが、きっと君のことを見守る手段はあるはずだ。だから、俺の心はいつでも君と共にある。俺は一足先に行くが、君は後から……」
「ならば今、私もお供します!」
珍しく咲が、杏寿郎の言葉をさえぎるようにして声を上げた。
杏寿郎との長い結婚生活の中で、咲がこのようなことをしたのは初めてかもしれない。
「むぅ、だがな咲」
幼い頃の千寿郎に言うような口調になって杏寿郎は眉を下げる。
「君は俺より六つも若いのだ。まだまだ長く生きられるかもしれん」
「いいえ」
そう言って咲は、半分開いたままになっている障子の向こう、先ほどまで自身が寝ていた布団を指差した。
そこには、静かに横たわっている咲の姿があった。
「私の天命は、つい先ほど全うされました。だから今、私も杏寿郎さんと一緒に参ります」
そう言ってニコッと笑った咲に、今度は杏寿郎が口をあんぐりとさせる番だった。
「……よもやよもやだ。全く君という人は……たまにとてつもなく思い切ったことをしてしまうのだから……」
杏寿郎は、「もう二度と離れない」と言わんばかりにぴったりと自身の横に張り付いている咲の手を握る。
「うむ!ならば共に行こう咲!」
その杏寿郎の明るい声に咲もまた、
「はい!」
と大きく返事をしたのだった。