第22章 番外編 其の参
「わっ、わあああん」
咲はまるで幼子のような泣き声をあげると、杏寿郎に駆け寄って行ってその膝に顔をうずめて、小さく丸まって泣き始めた。
「うぐっ、ふ、うぅっ」
ぎゅうう、と杏寿郎の着物を握り締めながら体を震わせている咲に、杏寿郎はその頭と背中に手を乗せポンポンとあやすように優しく叩きながらにっこりと微笑む。
「よしよし、咲、寂しい思いをさせたな。しかし、君がこんな風に泣くのは初めて見たぞ。よもやよもやだ!」
「うっ、うぅ……っ、きょう、じゅろぉ、さんっ」
顔を上げた咲の、大きな両目からボロボロと、まるでビー玉のような涙が次から次へとこぼれ落ちていく。
「うむ、うむ。咲、俺が居なくなった後、皆のためによく頑張ってくれていたな。俺はいつも君の姿を見ていたぞ」
そう言って杏寿郎は、涙で濡れた咲の頬を親指の腹で拭う。
「実を言うとな、俺はいつもここに来ていたのだ。君のことも、皆のこともいつも見守っていた。君がこっそり俺の着物を羽織ってみたり、俺の布団で寝ていたりしていたのも知っているぞっ!」
ニッと嬉しそうに笑う杏寿郎に、咲の涙は一瞬で引っ込んで、今度は頬が紅葉のように真っ赤になる。
はくはくと言葉が出てこないまま口を動かしている咲に、杏寿郎はにっこりと更に眉を垂れさせて笑う。
「ううむ!全くもって、君は本当に可愛いな!!君と知り合ってから五十年近く経つと言うのにまだまだ見飽きない!いや、見飽きることなどないだろう!だからこれからもずっと君を見守っていきたいと思うのだが……」
ふいに言葉を切った杏寿郎の沈黙に、咲の瞳がゆらりと揺れる。
引っ込んだはずの涙が、また瞳の奥でコポコポと湧き上がってきそうであった。