第22章 番外編 其の参
そんな風にしてひと月ほど経ったある日の晩、咲は夢を見た。
当初、咲はそれが夢だとは思わなかった。
なぜならそこは咲が寝ている寝室であり、夜具も部屋の様子も何一つおかしなところが無かったからだ。
だからてっきり咲は夜中に目を覚ましたのだと思って、だったら少し月でも眺めようかしらと羽織を肩にかけて布団から立ち上がった。
庭に面した障子に手をかけようとした時、その障子紙に人影が写っていることに気がついて咲はハッとする。
こんな刻限に一体誰が……まさか強盗であろうか、と一瞬体を固くしたが、よくよくその人影を見てみると特徴的にピンピンと跳ねている髪が見えた。
トサカのように勢い良く天を向いた、その見慣れた髪型。
「桜寿郎?任務は終わったのですか?」
近所の別宅に住む息子が様子を見に来てくれたのだろうか?
だが時間が時間だけに、気を使って部屋には入ってこなかったのかもしれない。
そう思って咲は声をかけながらスススと障子を開いた。
だがそこにいたのは、桜寿郎ではなかった。
「む!咲、起こしてしまったか!」
「き、杏寿郎さん?!」
縁側に腰掛けてくるりとこちらを振り返ったのは、一か月前に亡くなったはずの杏寿郎だった。
それで咲はハタと、これはもしや夢の中なのではないかと思い至る。
桜寿郎達に言った気持ちに嘘はない。
しかしそうは言っても、やはり杏寿郎がいなくなった寂しさは埋めようもないもので、だから自分はこのような夢を見てしまったのだろうか。
一瞬、咲の頭にそのような思考が巡る。
だが、そんな風に冷静に分析できたのもそこまでだった。