第22章 番外編 其の参
杏寿郎が亡くなった後、喪主の桜寿郎をしっかりと支えながら無事に葬儀を終えた咲は、一息付くこともなく身の回りの荷物の整理に取り掛かり始めたのだった。
代々煉獄家に伝わる家宝や財産の管理、預かっている少年達の次の修行場の手配については、生前杏寿郎がしっかりと行ってくれていたので、咲はこの屋敷を次期当主となる桜寿郎一家にいつでも引き継げるように細々とした整理を行ったのだった。
もともと几帳面であるため荷物は常に整理されていたのだが、更にそれが整頓され、家中もまるで年末の大掃除でもしたかのように綺麗に掃除された。
そんな母親の姿に子ども達は、「母上、あまりご無理をなさいませんように……」と心配したのだが、それに対する咲の返答は意外なほど穏やかなものなのだった。
「大丈夫ですよ。それに、こうして家中を見て回っていると、どこを見ても杏寿郎さんとの思い出が思い起こされてきて、むしろ私は幸せなのです」
そう言ってにっこりと笑う咲の顔は、もうすぐ還暦を迎えようかという女性の顔にはとうてい見えなくて、まるで初恋に頬を染める乙女のようであった。
その可愛らしい笑顔を見ると桜寿郎達は、生前の杏寿郎と咲がよく笑い合っていた時の光景が思い起こされてきて、鼻の奥がツンとするのと同時に、胸が温かいもので満たされるような気がするのだった。