第22章 番外編 其の参
そんな靑寿郎の祝言の準備を進めている内に、早々と真寿郎夫妻に第一子・藤寿郎(とうじゅろう)が生まれ、その4年後には第二子を身ごもったのだった。
ちょうどその辺りから、杏寿郎は時折体調を崩すようになっていった。
数年前から少しずつ食事の量も減ってきており、まだ十分に逞しい体と言えたが、現役時代から比べると幾分痩せたように見えた(とは言っても、相変わらず常人の何倍もの量を平らげていたのだが)。
炎柱として長年任務に従事し体を酷使してきた影響なのか、それともただの老化によるものなのか、杏寿郎の体は緩やかに衰えていっているようだった。
この変化は杏寿郎の父・槇寿郎にも同じように起きていたことで、60代の半ばを迎えようかという自身の年齢のことも考えると、杏寿郎の頭にはあることがよぎるのだった。
先日までやけに長引いていた風邪がやっと治った杏寿郎は、久々に月が見たくなって縁側へと足を向けた。
夜風は体に悪いからと、体調が戻るまでの間咲に禁止されていたのだ。
空を見上げると、今日は綺麗な月夜の晩で、空に浮かぶ青白い月は落ちてきそうなほどに大きかった。
「杏寿郎さん、寒くはございませんか」
いつの間にか咲も縁側に立っていて、その手には杏寿郎の羽織がある。
「うむ!大丈夫だ咲!それよりも見てごらん、見事な月だぞ!」
「わぁ、本当ですね!」
杏寿郎が指差す先にある大きな月を見上げて、咲も感嘆の声を上げる。
「手が届いてしまいそう」
そう言って咲は、杏寿郎と同じように月に向かって手を伸ばす。
そんな咲の体を、ふいに杏寿郎が抱き上げた。
「そら!これなら届くやもしれん!!」
「杏寿郎さん…!まだお身体の具合が優れないのにご無理をなさっては…」
「なんのなんの!咲を抱える力くらいはまだまだ残っているぞ!」
カラカラと笑って、杏寿郎は草履を足につっかけて庭へと降りていく。