第22章 番外編 其の参
靑寿郎から報告を受けた杏寿郎と咲は、これ以上無いというほど喜んでくれた。
そんな両親の姿を見て靑寿郎も嬉しくなる。
だが一つ、今更気にしてもどうしようもないことかもしれないが、気になって仕方のないことがあった。
「…あの、実は一つだけお聞きしたいことがありまして…」
目を伏せて、メガネの奥で言いにくそうに逡巡している靑寿郎に、咲は気を利かせて席を立つ。
何やら男同士の方が話しやすそうな内容に思えたからだ。
廊下へと消えていった咲を見送って、杏寿郎が靑寿郎に向き直る。
「さて、靑寿郎。聞きたいこととは何かな?」
「はい…。あの、これは取るに足らないようなことかもしれませんが、是非とも父上の教えを賜りたくお聞き致します」
「うむ」
杏寿郎はゆっくりと頷いて、真っ直ぐに靑寿郎の瞳を見つめる。
その力強い視線に励まされたのか、靑寿郎はポツポツと語り始めた。
「俺が彼女と初めて出会ったのは、彼女がまだ10歳の頃でした。彼女は鬼に家族を奪われ、蝶屋敷に引き取られ働いていました」
彼女の身の上を知り、杏寿郎の顔は少し悲しげになる。
「看護婦として、慣れないながらも懸命に働く彼女の姿は、俺に勇気を与えてくれました。幼いながらも己の使命を全うしようとするその健気な姿に、俺は震えるほどの感動を覚えたのです」
そこでぐぐっと、靑寿郎は正座した膝に置いていた拳に力を込めた。
「彼女は人間として素晴らしい。…ですが、そんな年端もいかない少女に恋慕してしまうなど…俺は、少しおかしいのでしょうか…?」
俯いた靑寿郎の、メガネの奥の瞳が不安げに揺らめいたのを見て、杏寿郎は静かに話し始めた。
「靑寿郎よ、そんなことは決してない。お前は心から愛しいと思う女性に出会っただけだ。そこに年齢などは関係ない」
「父上…」
それでもまだ胸のわだかまりが晴れない表情をしている靑寿郎に、杏寿郎は少し気恥ずかしさもあったが、可愛い息子のためにここで暴露してしまうことにした。