第22章 番外編 其の参
だが、杏寿郎がこのようにして探りを入れたのはこれが初めてのことである。
今までは気になりつつも何も言うことはなかった。
靑寿郎本人の気持ちを尊重したかったからだ。
その杏寿郎がいよいよその心情を吐露したものだから、それは桜寿郎の口を経てあっという間に靑寿郎へと伝わったのだった。
「父上がお前のことを心配なさっておられる。結婚とは自分の気持ちで決めるものであるが、お前にも何か考えがあってのことなのだろう?」
と、すでに全てを見透かされているような口調で桜寿郎に言われたので、ついに靑寿郎は腹をくくった。
じつは靑寿郎には、長年に渡る想い人がいる。
それは蝶屋敷で働く看護婦の一人だ。
靑寿郎が20歳の時、少し大きな怪我をして蝶屋敷に入院したことがあるのだが、その際に看病してくれたのが彼女であった。
一目見た瞬間、ビリビリッと全身を雷で打たれたかのような衝撃を感じ、自分はこの女性と結婚する、生涯の伴侶はこの女性以外有り得ないと直感した。
だが問題は、彼女の年齢であった。
その時の彼女はわずか10歳の少女であり、靑寿郎が可愛がっている真寿郎や詩織と全く同じ年だったのだ。
とてもそんな年端もいかない少女に求婚するわけにはいかない。
そういう訳で靑寿郎は、彼女がもう少し成長するまではと長年見守り続けてきたのだった。
だが見守るとは言っても、そこはやはり煉獄家の男である。
自分が彼女の手を握ることは無かったが、他の男がそんなことをする素振りを見せようものなら、視線だけで殺せそうなほどの殺気を放って相手を追い払っていた。
彼女の方も靑寿郎に好意を抱いていたから良かったものの、これで両思いでなかったら靑寿郎はかなり厄介な男になるところであった。
とにもかくにも、杏寿郎の心配を聞いた靑寿郎は、いよいよこの時が来たと勇気を振り絞り、満を持して彼女に求婚したのだった。
返事はもちろん快く了承。
それで靑寿郎は、結婚したい相手がいると両親に報告に上がったのだった。