第22章 番外編 其の参
そんな真寿郎もまた、父親の桜寿郎と同じく20歳で結婚した。
相手は、千寿郎の娘・詩織の友人であった。
紹介のため本宅に連れてきた女性の前で真寿郎が、臆面もなく杏寿郎と咲に向かって、
「おじい様達が昔俺に教えてくださった通り、おのれの全てを捧げて愛したいと思う女性を見つけました!!」
と無邪気に報告したので、赤面したのは相手の女性だけではなかった。
本宅には詩織もやって来ており、真寿郎の言葉に今にも消え入ってしまいそうなほど恥ずかしがっている友人を気の毒に思い、「真寿郎くん、ほどほどにしてあげてね」とやんわり注意したのだった。
真寿郎と詩織は同い年であり、きょうだいのような気安さがある。
その様な仲だから、成長してからもちょくちょくと顔を合わせており、ある時友人と一緒にいる詩織に声をかけた真寿郎が一目惚れしたのが、この女性だったという訳だ。
詩織は、両親によく似たおっとりとした優しい娘に育っていた。
千寿郎の事は父上ではなく「お父様」と呼び、所作も丁寧で家事が得意である。
そろそろ年頃だというので見合いの話も出ているのだが、なかなか千寿郎が首を縦に振らないというので、娘を持った男性というのは一度は必ずこの道を通るものなのだろうかと思って咲は可笑しかった。