第22章 番外編 其の参
「…して桜寿郎よ、真寿郎は鬼殺隊では問題なくやれているか?」
杏寿郎が腕組みをしたまま訊ねる。
それに対して、真寿郎をやや呆れ顔で見つめていた桜寿郎の目つきが変わった。
「はい、それについては問題なく」
桜寿郎は、妹に叱られながらもあっけらかんと笑いながら着物を直している真寿郎の、少年ながらも鍛え抜かれた体を見ながら言った。
「あいつはややアホですが、剣の腕については間違いなく天才です。親の欲目無しに、真寿郎には生まれ持った才というものを感じます」
「うむ!それは間違いないだろう!俺の目から見ても、真寿郎はここ数代の当主の誰よりも優れている!!」
幼い頃から真寿郎に稽古をつけてきた杏寿郎も、確信した目をして叫ぶようにして言う。
剣術は鍛錬をすればするほどに強くなれる。
もちろん、あくまでも素地を持っていればということにはなるが。
だが真寿郎の場合は違った。
鍛錬して強くなっていくというのとは、何かが根本的に違った。
その体の作りも身のこなしも、幼い頃からもう何もかもが他の子ども達とは違ったのだった。
真寿郎は、日常生活上の些細なことについては基本的に間抜けと呼ばれるような間違いばかりを繰り返している。
いい歳をして着物の裏表を間違えたり、持ち物をすぐに失くしたりなどだ。
酷い時には下帯を付けるのすら忘れたりする。
それは幼い子どもでも当たり前にできるようなことばかりで、靑寿郎のおっちょこちょいとはまた少し違った、どちらかというと細かいことに頓着しないゆえの過ちのようなものであった。
だが一方で、剣に関することについては持ち物の管理から日頃の心構えまで、見事なほどに一分の隙もなかった。
そして、鍛錬や実戦問わずに打ち込む一手はいつでも最良で最高のもの。
まさに、剣の天才。
鬼殺隊入隊のための最終選別においても、これまで従事した鬼殺任務においても、対峙した鬼は全て一刀のもとに斬り伏せているということだった。
真寿郎のアホは、己の意識の全てを剣に向けているがための、天才ゆえのおっちょこちょいなのかもしれなかった。
真寿郎はまだまだ鬼殺隊に入隊したばかりの新米隊士であるが、襲名するかどうかは別として、あと数年、ヘタをしたら一年以内には炎柱と成りうる実力を身につけるのではないかと、杏寿郎も桜寿郎も密かに思っているのだった。