第22章 番外編 其の参
杏寿郎は育手として弟子となった少年達を指導する一方で、以前の宣言通り孫の真寿郎にも稽古をつけ始めていた。
真寿郎はやっと5歳になったばかりであったが、十歳近く年の離れた少年達に混じって鍛錬に励んでいた。
まだ子どもゆえに純粋な腕力では当然敵わないのだが、試合となると、驚くべきことにどの少年も真寿郎には手も足も出ないのだった。
その日も杏寿郎は庭に出て、皆に稽古をつけていた。
素振りが終わった者から外に走り込みに行かせ、つい先ほど最後の一人を送り出したところだった。
ふと見ると、ちょうど洗濯物を干し終えた咲がこちらに戻ってくるところだった。
咲も杏寿郎同様、いくつになっても若々しいままで、その姿は相変わらず愛らしいものである。
もちろん少女だった頃のようにとはいかないが、咲は年の取り方まで美しいのだった。
弟子達は皆走り込みに行かせているし、靑寿郎は任務に出ている。
今、この屋敷には間違いなく二人しかいないだろう。
そう思った杏寿郎はつい嬉しくなって、近くまで歩いてきた咲にたったったっ、と弾むような足取りで駆け寄って行くと、両腕を大きく広げてギュッと抱きしめた。
「わっ!杏寿郎さん!」
「咲!!あぁ、愛いなぁ!何で君はそんなに可愛いんだ!」
腕の中で驚いた表情をしている咲を見下ろしながら杏寿郎は、デレッと顔を緩ませる。
ニコニコと目尻を下げて微笑んでくる杏寿郎の顔を見上げ、咲もまたホワホワと心が温かく満たされていくのを感じるのだった。
「…杏寿郎さんこそ、なぜそんなに格好良いのですか?私はいつも、貴方の側にいるだけで心臓が破裂してしまいそうです」
「むぅ…!」
自分は直球で気持ちを表現するくせに、咲からのそういう言葉にはいつまで経っても慣れないらしい杏寿郎が、目元を赤くして口をむにゅむにゅとさせる。