第22章 番外編 其の参
槇寿郎の四十九日が過ぎ無事に納骨も行われ、煉獄家にもまた穏やかな日々が戻ってきた。
「おじいさまーっ!!おばあさまーっ!!」
と、元気いっぱいの声を庭先で上げて両手を振っているのは、杏寿郎夫婦の孫・真寿郎(しんじゅろう)だ。
真寿郎は長男・桜寿郎の第一子である。
もうすぐ3歳になる真寿郎は、近所の別宅からほぼ毎日のように本宅に遊びに来てくれていた。
子どもらしい天真爛漫な笑顔が可愛い子で、幼いながらもすでにかなりの身体能力を発揮していた。
何しろ庭の木にはまるで猿のようにするすると登って行ってしまうし、まるで足に強靭なバネでも入っているかのようにぴょんぴょんと宙返りやら後方転回(バク転)やらを繰り返している。
ある時など、咲がおやつを取りに一時席を外して戻ってくると、真寿郎は塀の瓦の上を猫を追いかけて全力疾走していた。
あの時ほど咲が仰天したことは無い。
そんな真寿郎が遊びに来ると、杏寿郎も一緒になって飛んだり跳ねたりして元気いっぱいに遊んでやるのだった。
すでに杏寿郎は40歳を超えていたが、相変わらずその姿は若々しく、身体能力は衰えるということを知らなかった。
だが、子どもの体力は無尽蔵である。
さすがの杏寿郎もしばらくすると疲れてしまって、フウフウと汗をかきながら咲のいる縁側にヘばるように倒れ込んできた。
「さすがにこの俺も、子どもの体力にはついていけんな!」
額に汗を浮かべ仰向けで大の字になる杏寿郎に、咲は笑いながら冷たい麦茶を差し出す。
「ふふ…真寿郎は特に元気いっぱいの子ですからね。あの身のこなし、私は時々あの子は天狗様ではないかと思うことがあるくらいです」
そう言って咲が視線を向けた先では、真寿郎が丁度庭石の上からぴょーんと飛び上がって空中でくるくると回っているところだった。
「あぁ!あの子の身体能力は本当に素晴らしいな!!もうそろそろ剣の稽古でもつけてみようかと思っている!」
「それはよろしいですね。桜寿郎も、このくらいの年から稽古を始めましたものね」
ニコニコと微笑みながら言った時、咲はふと、桜寿郎が槇寿郎のことを「じいじ」と呼んだ時のことを思い出した。