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【鬼滅の刃/煉獄】冬来たりなば春遠からじ

第22章  番外編 其の参



少しの間、夜の静寂が二人を包み込む。

夜の空気に撫でられた頬が、ひんやりと冷たくなっているのが触れずとも分かる。

だが杏寿郎は、先ほど咲がかけてくれた半纏で背中からポカポカと温まってゆくのを感じていた。

「杏寿郎さん、本当にお疲れ様でございました」

そっ、と咲の小さな手が、膝の上で握られていた杏寿郎の手に重なる。

その白く滑らかな手の温もりを感じながら杏寿郎は、白装束に身を包み棺の中で静かに横たわっている槇寿郎の寝顔を思った。

「…とても穏やかなお顔をなさっておいでだった」

杏寿郎の言葉に、咲も静かに頷く。

「そうですね…。心から安心なさったような…幸せそうなお顔をされていましたね」

「うむ」

杏寿郎は、父が死の間際に浮かべた笑顔のことを考える。

あの様な笑顔、久しく見たことが無かった。

自分達に子どもが生まれ、孫が生まれ、それに伴い槇寿郎の顔にはどんどんと笑顔が増えていった。

その笑顔の中には、時に思わず苦笑してしまうような、あの厳格だった父がしているとは思えないほど緩んだものもたくさんあった。

だが…最後の最後に父が浮かべたあの笑顔。

それは自分の記憶の中で最も鮮明に残っている、強くて優しい若かりし日の父の笑顔だった。

「いまわのきわ、父上が最後に浮かべられたあの笑顔。あれは俺達が子どもだった頃、まだ父上が炎柱として鬼殺に尽力されていた頃の笑顔だった。強くて優しい、まさに太陽のような笑顔。俺はあの笑顔が本当に大好きだったのだ」

咲は何も言わないが、穏やかに頷きながら聞いている。

「千寿郎などはまだ幼かったから覚えていないだろうが、父上はあの笑顔を浮かべながら、よく俺達に剣術の稽古をつけてくださった。父上はとてもお優しい方だが、稽古はすこぶる厳しくてな!俺はよく筋肉痛で腕が上がらなくなったものだ!」

ははは、と杏寿郎は昔を懐かしむように笑い声を上げる。

それから急に静かになって、ふぅー、と長い息を吐くと、白い筋が空気に溶けていくのを少しの間見つめていた。

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