第22章 番外編 其の参
「杏寿郎、千寿郎…お前達には、幼い頃から辛い思いばかりをさせた。今さら許してくれとは言わん。だが俺は…お前達のことが何よりも大切で…失いたくなかったのだ…。愚かなことをしてしまった。本当に、すまなかった」
「なっ、何を仰いますか父上っ!!許すも許さないも、父上が俺達の事を大切に思ってくださっていたお気持ちは、ちゃんとこの胸に届いておりましたよ!!父上のお気持ちはしっかりと我らに伝わっていました!!」
「そうですよ、父上っ!!」
杏寿郎と千寿郎は、身を乗り出すようにして言う。
その燃えるように赤い瞳には涙が浮かんでいた。
「俺は…俺達は…貴方の息子に生まれて本当に幸せでした」
そう言った杏寿郎の声は、普段の堂々としたものとは違い微かに震えていた。
杏寿郎のその言葉に、一瞬槇寿郎の両目が驚いたように見開かれる。
その瞳の中には、後悔や懺悔、愛情、喜びなど様々な感情がまるで大渦のように混ざり合って複雑に浮かんでいた。
だが、ゆっくりと瞬きをして次に開いた時には、その瞳は澄んだ川面のように穏やかに輝いていた。
「ありがとう…俺も、お前達のような立派な息子を持てたこと、心から誇りに思うぞ」
そう言って槇寿郎は、まるで少年のような一切のしがらみから解き放たれたような笑顔を浮かべて、吸った息を吐くようにして静かに逝ったのだった。