第22章 番外編 其の参
それから数日後。
杏寿郎と桜寿郎が本宅にいる時を見計らって、咲は二人を座敷に呼び出した。
「お座りください」
と、何故か普段のほんわかした口調ではなく、やや厳しい声を出した咲に、ギシッと二人の体は瞬時に固まり、背筋に一本の杭を差されたようになる。
咲がこのような声を出す時は、何か諫められる時と決まっているからだ。
二人はそっくりの表情で顔をこわばらせながら、静かに咲の前に並んで正座をする。
こういう時の咲はとても恐ろしく、普段異形の鬼にも物怖じしないで立ち向かっていく二人が、その広い背中を丸め縮こまったように小さくなってしまうのだった。
「火凛のことで、お二人にお話があります」
静かな声で言われたその言葉に、二人の心臓がドキンと跳ねる。
ここ最近の態度について、二人にも当然自覚があったからだ。
父として兄として、火凛の幸せな門出を祝ってやらなければならない。
それは分かっている。
だが、男とはどうしようもなく弱いものなのだ。
己の心の一番柔いところを突かれると、途端に力が入らなくなってしまう。
そんな不抜けた自分達のことは、己が一番良く知っていた。
「火凛のお相手の清一郎さんは、今時まれに見る立派なお方です」
「うむ…」
「はい…」
咲の言葉に揃ってうなだれる杏寿郎と桜寿郎。
「私は、そんな素晴らしい方のもとに嫁げる火凛のことをとても嬉しく、誇らしく感じ、精一杯の支度をさせて送り出してやりたいと思っております」
そこで一度言葉を切って、咲の大きな瞳がじっと二人を見据えた。
「お二人は、そうではないのですか?」
じっと見据えていた咲の瞳が、じろり、と色を変えた。
その瞬間にはもう、杏寿郎と桜寿郎は畳に額を擦りつけ平伏していたのだった。