第22章 番外編 其の参
そんな風にして気落ちしている二人の様子に咲も当然気づいていたし、その心境に共感するところもあった。
そして当事者である火凛ももちろん、二人のことには気づいていた。
最初のうちは苦笑いしていた咲と火凛であったが、杏寿郎と桜寿郎の落ち込みっぷりがあまりにも酷いため、次第に火凛までもが気を揉むようになってしまったのだった。
「父上も兄上も、私のことを心配してくださっているのは分かるのですが…」
ある日、一緒に白無垢の仕立てのために呉服屋に行った帰り道にポツリと火凛が言った。
それを聞いた咲はハッとして火凛の顔を見る。
その美しい横顔がへにゃんと悲しそうに垂れていて、咲はたまらなくなり思わずその体を抱きしめた。
「火凛!大丈夫ですよ。父上様も桜寿郎も、火凛の結婚を何よりも喜んでいます。それに、お二人は結婚を心配しているのではありません。…きっと、可愛い火凛が遠くに行ってしまうような気がして寂しいのでしょう」
「母上…」
咲の柔らかな体と藤の花の香りに包まれて安心したのか、火凛は子どもが甘えるようにして咲の肩に顔を埋める。
その頭を優しく撫でてやりながら咲は、「これはどうにかしなければならない…」と胸の内で強く決心したのだった。