第22章 番外編 其の参
その後、杏寿郎夫婦に第三子が生まれた。
第二子の火凛とは五歳違いのその子は、靑寿郎(せいじゅろう)と名付けられた。
桜寿郎同様に、美しい焔色の髪に、きりりとした太い眉毛、燃えるように赤い瞳を持ち、連綿と受け継がれてきた煉獄家の男の特徴を忠実に受け継いだ立派な姿をした男の子だった。
だがその顔立ちは杏寿郎よりもどちらかというと咲に似ていて、男らしさの中にもどこか華やかさのある、成長したらさぞや美男子になることだろうと思われる顔をしていた。
そしてその靑寿郎の誕生から少しして、千寿郎が結婚したのだった。
千寿郎からの紹介によると、相手は千寿郎がよく通っていた古本屋の娘さんで、お店でお互いを見かけて気になっていたそうだ。
お付き合いのきっかけは、その娘さんが道端でゴロツキにナンパされているところを千寿郎が助けたことだという。
23歳の千寿郎より5つ年下の18歳で、黒髪お下げでおとなしめのほわんとした優しい雰囲気の子であった。
だが穏やかな性格ながらも芯は強く、健気に千寿郎のことを支えてくれるという。
彼女には兄が一人いて、家業の古本屋はその兄が継いでくれることになっているらしい。
これは煉獄家本宅にて執り行われた祝言の席で新婦の父親が話したことなのだが、実はその父親は若い頃鬼に襲われているところを当時炎柱であった槇寿郎に助けられており、鬼狩りの存在を知っている数少ない人間であった。
だから息子と娘にも、煉獄家には礼を尽くすようにと幼い頃から教えて育ててきた。
槇寿郎に助けてもらわなければ、こうして所帯を持ち子どもを得ることも出来なかったという感謝の想いからだ。
だから、自分の娘がその一族に迎えられることを大変喜んでくれたのだった。
祝言の席で杏寿郎は、その大きな瞳をまじまじと見開き、紋付袴を着て上座に座っている千寿郎の姿を穴が開くほど見つめていた。
「咲よ…時が経つのは実に早いなぁ。ついこの間まで子どもだと思っていたものが、あんなに堂々とした立派な男になっている」
「えぇ、本当に…」
杏寿郎の隣に並んで座りながら咲もまた、まるで息子が結婚したかのような感慨深さに包まれていたのだった。