第22章 番外編 其の参
「え…咲さん、今、俺のこと…」
「うん、千寿郎くんももう立派な大人でしょう?いつまでも”くん”と呼ぶ訳にもいかないかなって思って。ね、千寿郎さん」
「う…は、はい…」
慣れない呼ばれ方に、急激に照れたように千寿郎の頬が赤くなる。
照れ隠しなのか、俯きながらポリポリと頭を掻いている。
そんな二人の様子をしばらくの間黙って見つめていた杏寿郎だったが、おもむろに二人の側に寄って行くと、
「愛いっ!!」
と言って二人を同時に抱きしめた。
「うむ!!愛い!!実に愛いな!!俺の妻と弟が可愛すぎて、俺は胸が苦しい!!」
「あ、兄上っ!俺はもういい年をした成人ですよ!」
「何を言うか千寿郎!!お前はいくつになっても可愛い俺の弟なのだ!!愛いものを愛いと言って何が悪い!!」
まったくもっていつも通りの勢いのまま叫ぶ杏寿郎に、千寿郎はもはや条件反射のように眉を下げて微笑んだ。
悪意のまったく無い兄の暴走は、いつも千寿郎に嬉しいとまどいを与えてくれるのだ。
そんな杏寿郎達に向かって、桜寿郎に料理を取り分けてやっていた槇寿郎が、
「杏寿郎!!食事の席だぞ、愛い愛いやかましい!」
と怒鳴る。
だがその口元は、普段と比べて随分とむにゅむにゅと緩んでいるのだった。