第22章 番外編 其の参
そして、あっという間に千寿郎の誕生日がやってきた。
食卓には千寿郎の好物が所狭しと並べられ、普段よりも少しだけ良い着物を着た千寿郎が座敷の上座に座る。
瑠火が亡くなり火の消えたようになっていた頃はこのように盛大に誕生日を祝うようなことは無かったが、咲がこの家にやって来て、杏寿郎と結婚し、孫も生まれた今となっては、誰かの誕生日は盛大な祝いをする賑やかな日へと変わっていた。
「おめでとう!!」
と、兄の杏寿郎から大きな声で祝われると、千寿郎は照れたようにはにかんで少しだけ首を傾げる。
これはおっとりとした千寿郎の昔からの癖で、穏やかな微笑みを浮かべながらするこの仕草が咲はとても好きだった。
「これ、新しく仕立ててみたの。気に入ってもらえるといいんだけど…」
そう言って咲は、風呂敷に包んであった着物を千寿郎の前で広げて見せる。
「わぁっ、ありがとうございます咲さん!!すごく嬉しいです!!」
ぱああっ、とこの時ばかりは少年のような表情に戻って、千寿郎がはしゃいだ声を上げる。
それから咲に促されて軽く着物を羽織ると、照れつつもくるりと一回まわってみせた。
「とても良くお似合いですよ、千寿郎さん」
ニコッと微笑んで言った咲の言葉に、一瞬千寿郎の動きが止まり、ポカンと口を開けて咲の顔を見つめ返す。
そのキョトンとした顔の幼さが、少年だった頃の千寿郎の表情そのもので、咲はますますにっこりと微笑んだ。