第22章 番外編 其の参
「ところで、今日は桜寿郎坊ちゃんは一緒じゃないんで?」
「うむ。桜寿郎は今、自宅で千寿郎と手合わせをしておる」
「へぇ!そいつは立派だ!桜寿郎坊ちゃんは、日に日にお父上の杏寿郎様に似てこられますね。千寿郎様もそっくりだが、兄上様と比べると少しお顔立ちが優しいようだ」
「あいつは瑠火に…母親似だからな」
少しうつむき加減になりながらも、まるで雲間に一瞬差した陽光のような表情を浮かべて槇寿郎が答える。
槇寿郎の妻・瑠火は病により若くしてこの世を去ったが、意志が強く気丈で、そして何よりも凛とした美しさを持った女性であった。
その瑠火の事を槇寿郎は心から愛しており、後妻も取らずに今でも一途に想い続けている。
「もうそろそろ千寿郎様も成人でしょう?もう”坊ちゃん”などとは呼べませんや」
そう言って笑う八百屋と魚屋のカラカラとした笑い声を聞きながら、咲も内心「ハッ」としたのだった。
千寿郎はあとひと月もすれば成人する。
咲が煉獄家に引き取られてきた時はまだ十にも満たない子どもであったが、いつの間にか自分よりも背が高くなり、体格もメキメキと男らしくなり、父親や兄と同様に焔色の髪と燃えるような瞳が凛々しい金獅子のような青年へと成長していた。
(確かに…もう千寿郎”くん”なんて呼ぶ年じゃないのかもしれないなぁ…)
そんなことを思いながら、咲は槇寿郎と共に夕飯の買い物を続けたのだった。