第22章 番外編 其の参
例の一件以降、買い物の際には槇寿郎も付いてくるようになったのだった。
すでに五十歳近く、孫が二人もいる槇寿郎ではあるが、その体格・立ち居振る舞いからはとても「おじいちゃん」というような弱々しい印象は感じさせない。
むしろ、まさに体力の絶頂期にあるような青年ですら、この槇寿郎の前では赤子同然にひねり潰されてしまうであろう。
老いたとは言え、元・炎柱の実力は凄まじいものなのである。
そうでなければ、人間の力を易々と凌駕する人食い鬼と渡り合うことなど到底出来はしない。
槇寿郎はいつも咲の半歩先を歩きながら、その猛禽類を思わせるような鋭い視線で周囲の男達を睨みつけていた。
槇寿郎もまた千寿郎が察知していたのと同じように、周囲の男達からの邪な視線を敏感に感じ取り、声をかけるどころか近寄ることさえできないほどの圧を放っていたのだった。
そんな槇寿郎の姿に、咲はありがたい気持ちと、やや恥ずかしさでいたたまれないような気持ちを抱きながら、日々買い物を行っているのだった。
「や、これは煉獄のお殿様!今日も相変わらず渋いねぇ!」
軒先から八百屋の店主が声をかけてくる。
「む…またそのような軽口を叩きおって…」
決して不快な訳ではないのだろうが、根が硬派な槇寿郎は、むぅと口を引き結ぶ。
その横から魚屋の店主も話しかけてきた。
「まぁまぁ旦那!軽口も俺らの商売の内ですから。ね!若奥さん」
魚屋にニッと笑いかけられて、咲も「ふふっ」と笑って頷いた。