第21章 番外編 其の弐
「え……?」
驚いたのは男達だけではなかった。
いまだに地面に尻を付いている桜寿郎と、それに寄り添うように座り込んでいる八百屋と魚屋の店主もポカーンとしたまま咲を見上げている。
一体何が起こったというのだろうか?
だがそんな三人が見つめていた咲の小さな背中が、バッと勢い良く振り返った。
そして、まるで飛びつくようにして桜寿郎の体を抱きしめたのだ。
「桜寿郎!!あぁ、桜寿郎、桜寿郎…っ!!どこか怪我はしていませんか?!」
桜寿郎の体をかき抱くように抱きしめて、咲は桜寿郎が怪我をしていないか手足を触って確認し始めた。
だが幸いにも、転んだ時に地面についた手のひらが少し擦りむいていた程度で、桜寿郎に大きな怪我は無かった。
ほっと息を吐き、咲は再度桜寿郎の小さな体をぎゅうううと強く抱きしめた。
一方の桜寿郎は、母のしっとりとした滑らかな手が自身の体を必死で確認しているのを感じながら、いまだ言葉を発せずに呆然としていた。
だが、ふわりと香る藤の花の匂いの中で強く抱擁された時、母親の体が小刻みに震えていることに気がついた。
「母上?お身体が震えて…」
桜寿郎はそっと咲の背中に腕を回すと、背中をさする。
その小さな手の動きを感じながら咲は、胸に抱いている桜寿郎の、不安げに自分を見上げてくる小さな顔を見下ろして言った。
「あなたに何かあったらと思って、母は恐ろしくて恐ろしくて…!!」
桜寿郎は、自身を見下ろす咲の口元が今にも泣き出してしまいそうに震えているのを見て、じわりと瞳の奥から熱いものがこみ上げてくるのを感じた。