第21章 番外編 其の弐
「おいお前ら!!何してんだっ!!」
そこへ、咲がいつも買い物をしている八百屋と魚屋の店主が飛び出してきた。
人々のザワめきを聞きつけ咲の一大事を知った二人は、店もほっぽり出して駆けつけて来てくれたのだ。
「うるせぇ!ジジイ共は引っ込んでろ!!」
だがナンパ男達も引かない。
ついに男が、咲の細い右手首を掴んだ。
その瞬間、桜寿郎が男に飛びかかっていった。
「おのれ!!その汚い手を離せ!!」
まるで炎のつぶてのように飛んでいった桜寿郎の体を、咲の腕を掴んでいるのとは別の男が横から突き飛ばした。
「ガキはさっさと家に帰んな!」
やや肥満気味の大柄な男の太腕に弾かれた桜寿郎の体は、ザザッと地面に横様に倒れ込む。
「桜寿郎坊ちゃん!!」
八百屋と魚屋が慌てて駆け寄り、うずくまる桜寿郎の体を助け起こした。
その時だった。
バシッと、咲の腕をつかんでいた男の手がはじかれて外れた。
そして桜寿郎を突き飛ばした男の顔面に、咲の拳が勢い良くめり込んだのだ。
「ぶっ、がっ!!」
鼻の下の急所に正確な正拳突きをくらった男は、もんどりうって地面に後ろざまに倒れ込む。
鼻血を出し、その巨体はビクッビクンと痙攣していた。
「おっ、おい、大丈夫か?!」
手を弾かれた男が仰天して駆け寄るが、仲間が完全に気絶していることに気づくと、「え…え…??」とサーッと顔色を失った。
青くなっている男の目の前に立ちはだかる咲。
咲の端正な顔に、逆光で影が差していた。
その表情は、眉や口元を歪めている訳ではなくむしろ凪いだ水面のように無表情なのに、その水面下では静かな怒りがふつふつと湧いているような、まるで火山がその内に潜ませているマグマのような激しい怒りが煮えたぎっているのが、その愚かな男にもハッキリと感じられるものだった。
「どうぞ、お引き取りください」
静かな口調で言われた言葉。
そのあまりの迫力に、恐怖が極限に達した男は「ひーっ」と悲鳴を上げて、倒れた男を引きずりながら逃げて行ってしまった。