第21章 番外編 其の弐
「ねぇ、いいでしょ?」
そう言って片方の男が咲の左腕をつかもうとした。
だがその手はスルリと着物の上を滑り、まるでのれんを押したかのように空振りする。
「え?」
着物を通り抜けた手を見て男はキョトンとした顔をしたが、まじまじと無遠慮に咲の左袖を見つめて、それからその時初めて気づいたように着物の裾から僅かに覗いている義足にも視線を落とした。
「あんた…腕と足が…」
男は最初、僅かにギョッとした表情を浮かべたが、それでもなお咲の体を下から上へ舐めるように見つめ、最後に顔を見てからニヤリと唇の端を上げた。
「ま、俺はそーいうの気にしないから。むしろ都合がいいっていうか、守ってあげたくなるっていうかー」
ニヤニヤとした笑みを浮かべ続ける男に、咲は久しく感じたことの無いような不快感に包まれ、キュッと買い物かごを持つ手を握り締めた。
指先が、冷たくなっていた。
「ねぇねぇ、いいでしょ?弟くんには先に家に帰ってもらってさぁ」
そう言って男は、今度は咲の右腕に手を伸ばそうとした。
だがそこに割って入った者がいた。
「母上に触るなっ!!」
まだ丸みを帯びた幼い額に青筋を立てた桜寿郎が、父親そっくりの大きな瞳を見開いて怒鳴ったのだった。
「は、母上えぇ?!」
桜寿郎の言葉に、男は一瞬手を止めて目を丸くする。
「まさか、親子かよ?!」
再度まじまじと咲と桜寿郎を見比べて、「へぇ~」と何故か感心したような顔をする男。
「随分若い頃に産んだんだなぁ。まぁでもコブ付きだろうがなんだろうが、アンタほどの別嬪さんはそうそういるモンじゃねぇ。俺は全然そういうの気にしないから」
そう言って男は、さらに咲に迫ってくる。