第20章 番外編 其の壱【R18含む】
また杏寿郎に案内されて別室に移動した不死川は、部屋に入るなりすぐに、縁側近くに敷かれた赤子用の小さな布団の上でもぞもぞと動いている生き物を発見した。
「ほわあぁァ~!!」
と不死川が珍妙な声を発したので、隣に立っていた杏寿郎は驚いた猫のようにピンと前髪を立てる。
「あ、不死川さん、お帰りなさい!ちょうど今起きたところなんです」
布団の横で赤ん坊を団扇であおいでやっていた咲が振り返って言う。
縁側に吊るされた風鈴が、チリンチリンと涼しげな音を立てていた。
「おォ、おォ、かんわいいなあァ~!!」
本当に、普段の狂気じみた表情はどこにすっ飛んでしまったのか、でれっでれに顔を緩ませて不死川は赤ん坊の隣にうずくまるようにして張り付く。
その時、布団の上でもぞもぞとしていた桜寿郎がパチッと目を開けた。
その燃えるような大きな瞳を見て、不死川は大げさにのけ反る。
「うおあァ!!お前にそっくりじゃねェかァ、煉獄ゥ!!」
「何を言うか不死川!!もっとよく見ろ!!この鼻、この口元なんか咲に似て華やかさがあるではないか!!」
不死川と同じように桜寿郎の布団の脇にうずくまるように張り付いた杏寿郎が、負けじと声を張り上げる。
「いやいや、どう見てもお前と瓜二つだろうがァ!!」
「いいや!!咲にも似ているっ!!」
そんな風に大声でやり取りしていたものだから驚いたのだろう。
桜寿郎の顔が見る見る内に紅潮していって、まるで雷神様のご降臨かと思われるような激しさで泣き始めてしまった。
その声量たるや、ビリビリと肌に振動を感じさせるほどである。
「よもや!!すまぬ桜寿郎!!父がうるさかったな!!」
反省しているのだろうが、桜寿郎が泣き出してしまったことに動転して気の回らなくなった杏寿郎が、慌てて抱き上げて先ほどと同様の大音量であやしつけようとする。
それに対し、当然のことだがさらに激しさを増す桜寿郎の泣き声。
「あらあら」
困り果てたような顔をしている杏寿郎に代わり咲が桜寿郎を抱くと、不思議なことにピタリとその泣き声は止んだ。