第20章 番外編 其の壱【R18含む】
上座に座った槇寿郎に頭を下げて挨拶をする不死川。
「煉獄殿、お久しぶりでございます。ご壮健で何よりです」
「う…む。不死川も変わりないようだな」
不死川のかしこまった様子に、どことなく気まずそうにしている槇寿郎。
槇寿郎と不死川は同時期に鬼殺隊に所属しており、片や炎柱、片や平隊士でそれほど接点があった訳ではなかったが、それでも何度かは任務で顔を合わせていた。
「本日は図々しくもまかり越しましたこと、どうぞご容赦ください」
「むう…、不死川、そこまでかしこまらずとも良い。俺はとうに鬼殺隊を脱退した身。現・風柱殿にそこまで礼を尽くされるような立場にはない」
「何をおっしゃいますか…!」
ガバッ、と不死川は身を乗り出すようにして顔を上げるが、後ろに控えていた杏寿郎が気をきかせて声をかけた。
「父上!不死川から、出産祝いの品をたくさん頂いております!!」
その助け舟に、ホッとしたような表情を浮かべる槇寿郎。
「そうか。それは手数をかけたな不死川。ありがたく頂戴する」
「大したものではございませんが、どうぞお納めください」
不死川は、普段の狂犬のような態度をどこへやってしまったのか、まるでお館様に接するかのような丁重さで再度頭を下げた。
なぜ不死川が槇寿郎に対してここまでの礼を尽くすのか。
それは槇寿郎の現役時代、不死川は何度もこの焔色の剣士に命を救われているからだった。
それに、その際に見た槇寿郎の姿は不死川の心に強烈な印象を残していた。
鬼をあっという間にねじ伏せてしまう圧倒的な力強さ、豪快でありながら流麗な技の数々、そしてニコリともしない寡黙で厳しい表情。
そんな姿が、強さを渇望していた若年の不死川の目にどれほど輝いて映ったことか。
端的に言えば、不死川は槇寿郎に強い憧れを抱いていたのだ。
それゆえに、徐々に心の均衡を崩していく槇寿郎の姿を見るのは杏寿郎同様に、いや場合によってはそれ以上に辛かった。
「む…、ま、まぁ、ゆっくりしていけ。桜寿郎を見てやってくれ」
「はい、ありがとうございます」
槇寿郎の言葉にまたもや深々と頭を下げる不死川に、いよいよ我慢できなくなった槇寿郎はすっくりと立ち上がると、杏寿郎に「あとは頼んだぞ」と目配せをしたのだった。