第20章 番外編 其の壱【R18含む】
そんな風にして、咲は順調に腹に宿った命を育んでいったのだった。
産婆のお政のもとへの受診も定期的にあり、そちらの方にも杏寿郎は毎回付き添ってくれるのだった。
咲は片腕片足が無い分、他の妊婦よりも出産にかかる負担が大きくなると言われていたから、杏寿郎も心配してくれていたのだろう。
そのことに咲は感謝と嬉しさを感じていたが、毎回杏寿郎が咲を抱き上げていこうとするので「杏寿郎さん!妊婦も少しは動いた方が良いと言われましたよ!」「むう!だが!」というやり取りが繰り返されるのには、少しだけ苦笑した。
そうして時が経ち、いよいよ咲は出産の日を迎えた。
それは夜間、杏寿郎が任務に出ている時に始まった。
産気づいた咲に気づいた槇寿郎が、まるで疾風のようにお政を呼びに飛び出していく。
そして残った千寿郎は、咲を布団まで連れて行き、お湯、布の用意などを大人も舌を巻くほどの的確さで迅速に準備してくれたのだった。
千寿郎はこの時のために、事前にお政にどのような準備が必要になるかを確認しておいてくれたのだ。
破水し陣痛の痛みに苦しみながらも、己の横でテキパキと立ち働いてくれている義弟の姿を見て、咲は本当に心から感謝したのだった。
じきに、槇寿郎がお政を担ぐようにして連れて帰宅した。
その小脇には髪を振り乱して呆然と目を丸くしている助手の姿もある。
おそらく槇寿郎の走る速度についてこられず、結果的にお政同様に担がれることになってしまったのだろう。
若い女性だというのに気の毒である。
一方のお政はさすがは産婆歴40年の大ベテランらしく、槇寿郎の肩から降ろされると一切動じることなく準備に取り掛かり始めた。
「ではお殿様、これから出産に入ります。千寿郎坊ちゃん、お湯をもっとたくさん沸かしてくださいますか」
テキパキと指示を出すと、お政は助手を伴ってふすまの向こうへと消えた。
千寿郎は台所へ向かい、槇寿郎は杏寿郎への連絡のため鴉を飛ばしたのだった。