第20章 番外編 其の壱【R18含む】
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煉獄家には古くから観篝(かんがかり)というしきたりがあり、子どもを授かった妻は、お腹に赤ちゃんがいる間、七日おきに二時間ほど大篝火を見るという。
それにより煉獄家男子の髪の色は焔色に染まるのだ。
屋敷近くに所有している林の中で、高々と組まれた薪が燃え上がる様を初めて見た時咲は、まるで自分の瞳も杏寿郎達と同じような赤色に染まってしまうのではないかと思ったほどだった。
空高く燃え上がる炎。
焚き火などという生易しいものではない。
まさに「大篝火」と言うにふさわしい、壮大さを感じさせる炎の柱であった
この観篝の儀式には莫大な量の薪を必要とし、そしてその準備にも相当な労力を要する。
なのでその準備は、代々煉獄家と縁のある一族にお願いしていた。
言わば、観篝の準備を行ってくれる一族である。
長い付き合いのあるこちらの家もまた煉獄家と同様に長い歴史を持つ家で、古くは戦国時代からその関係は続いているということだった。
途方もない長い歴史を繋ぐ家々に、咲は改めて自分の嫁いだ先のことを考えて身が震えるような思いがするのだった。
「見事だろう。俺もこれを見たのは、母上が千寿郎を身篭られた時以来だ」
「はい…とても荘厳で、美しい炎ですね。この炎をお母様が見られたおかげで、杏寿郎さん達の髪の毛はそのような見事な焔色に染まるのですね」
「うむ!俺はこの姿を誇りに思っているのだ!!」
そんな風にして杏寿郎と咲が話しているところへ、槇寿郎と千寿郎もやって来る。
「咲、ずっと立っていては疲れてしまうだろう。こちらに座って休みなさい」
そう言って槇寿郎が、背もたれのついた椅子を勧めてくれる。
こんなに立派な椅子が林の中にもともとあったはずもなく、この時のためにわざわざ持ってきてくれたのだということが分かる。
「ありがとうございます、お父様」
「うむ」
どことなく照れくさそうな槇寿郎の横から、千寿郎が言う。
「今後、兄上が一緒にいらっしゃれない時は、僕がお供いたしますので」
そう言ってにっこりと微笑んだ千寿郎に、咲も微笑み返した。
「ありがとう。よろしくね、千寿郎くん」
「頼んだぞ!千寿郎!!」
「はい!」