第20章 番外編 其の壱【R18含む】
その帰り道。
杏寿郎はこの上なく嬉しそうな笑顔を浮かべ、咲をお姫様抱っこした状態のままズンズンと道のど真ん中を歩いていく。
そのため道行く人は皆、一体何ごとだろうかと必ず振り返って見てくるのだ。
正直言って、とんでもなく目立っていた。
診察室で抱き上げられて以降一度も下ろされることなく杏寿郎の腕の中で揺られ続けている咲は、恥ずかしさでいたたまれず両手で顔を覆うようにしてうつむいている。
その顔は紅葉かと思われるほどに真っ赤に染まっていて、手では隠しきれない耳と首まで赤く染まっていた。
ここは普段買い物でよく通っている道である。
だから道のそこかしこに、顔見知りの姿が見える。
そんな馴染みの道でのこの扱い。
咲は激しい恥ずかしさで今にも体が破裂してしまいそうだった。
だが…、杏寿郎のこの喜びよう。
診察室で叫んだ「よくやった咲!!」という、よく通る声が今も耳の中で響いているような気がする。
咲は、恥ずかしい一方でここまで喜んでくれる杏寿郎の気持ちが嬉しくて仕方がないのだった。
だから、顔から火が出るほど恥ずかしかったが、どうしても「やめて」とは言えない。
そんな幸せな羞恥に耐え、やっと大通りから閑静な住宅街へと入って人目が無くなった時、顔を覆っていた手を僅かにずらすとその隙間から咲はおずおずと杏寿郎に聞いた。
「第一子は、やはり男の子が良いですか…?」
それに対する杏寿郎の返答は、まるで大砲のようだった。
「どちらでもいいさ!俺達の子だ!元気に健やかに生まれてきてくれれば、それだけでもう十分なのだ!!」
目の前で見開かれている真紅の瞳が、陽の光を浴びてキラキラと輝いている。
その美しい光景を見て、咲は心に大きな光の筋が差すような気がした。
「そうですね…!」
あぁこの方の言う通りだ。
男の子でも女の子でもいい。
きっとその子は、日本一幸せな子どもになるだろうから。
そんなことを考えながら咲は、杏寿郎の首に腕を回してぎゅうっと抱きついたのだった。