第20章 番外編 其の壱【R18含む】
翌朝、普段の習慣で夜明け前には咲は目を覚ました。
障子に目を向けると、明け方が近いことを知らせるように障子紙が青色に染まっている。
目の前には杏寿郎の胸。
咲の体は今も杏寿郎の腕の中にあり、一晩中離さずにいてくれたことが分かって咲は嬉しくなる。
咲はそっと身をよじって、杏寿郎を起こしてしまわないようにと細心の注意を払いながらその分厚い胸板にそっと耳を寄せた。
ドクン、ドクンと規則正しく繰り返されている鼓動。
咲はこうやって杏寿郎の胸に耳を当てて心臓の音を聴くのが好きだった。
特に、共に朝を迎えることの出来た日には必ずこうしている。
「君は本当にそれが好きだな」
いつの間にか杏寿郎が目を覚ましていて、にっこりと微笑みながら咲を見下ろしていた。
「すみません、起こしてしまいましたか?」
「いいや、俺もこの時間に起きようと思っていたから自然と目が覚めた」
そう言って杏寿郎は、更に咲を抱き寄せる。
二人の体温で温められ柔らかくなった布団と、寝起きでいつもより高くなっている杏寿郎の熱に包まれて、咲はうっとりとその幸福に目を細めた。
「杏寿郎さんの鼓動を聞いていると、とても安心して幸せな気持ちになるのです」
コトリと、また胸に顔を寄せてきた咲の頭を愛おしそうに杏寿郎は数回撫でると、
「どれ、では俺もやってみよう」
そう言って布団の中に亀のように潜り込んだ。