第20章 番外編 其の壱【R18含む】
そんな風にしてやって来た千寿郎のことを、杏寿郎は勢いよく抱き寄せた。
「えっ、えっ!」
杏寿郎の固く鍛え上げられた体と、藤の花の良い香りのする咲の柔らかな体に挟まれるようにしてぎゅっと抱きしめられた千寿郎は、その大きな瞳を白黒させる。
「千寿郎も、いつも家のことをしてくれてありがとう!!」
「千寿郎くん、いつも助けてくれてありがとう!」
「あっ、兄上っ、咲さん~…っ!!」
兄夫婦からの感謝の言葉の不意打ちを受けた千寿郎は、不覚にも目頭が熱くなるのを抑えられないのだった。
そんな千寿郎の頭を撫でてやる咲。
杏寿郎は腕の中にいる宝物のような可愛らしい生き物達を見下ろしながら、ふと思い出すのだった。
昔、自分が幼い頃によく見ていた光景のことを。
(父上と母上も、よくこうして互いを慈しむように抱擁していた。あからさまに子どもの目の前でやることはなかったけれど、俺はその光景を目にするたびに心が春の日だまりのように暖かくなるのを感じていたんだ)
赤面しながら泣き出してしまった千寿郎の涙を、咲が眉を下げて微笑みながら手ぬぐいで拭ってやっている。
(俺が、咲に対して何の意識もせずにこうして抱きしめてやれるのは、父上と母上のそんな姿をよく目にしていたからだ。きっと千寿郎も、いつか愛する人が出来た時に自然とそうすることのできる男になるだろう)
そんなことを考えながら杏寿郎は、腕の中の宝物達をより一層強く抱きしめたのだった。