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【鬼滅の刃/煉獄】冬来たりなば春遠からじ

第20章  番外編 其の壱【R18含む】







それから数日。

今日の任務も無事に終えた杏寿郎は、朝日が昇る頃に帰宅した。

一般的には明け方と言われる時刻だというのに、すでにきっちりと着物を着付けた咲が玄関で杏寿郎のことを出迎える。

「お帰りなさいませ、杏寿郎さん」

その可愛らしい顔に浮かぶ笑顔を見て、杏寿郎は一晩の疲れが一瞬で吹き飛んでしまうのを感じた。

「うむ!ただいま、咲!!」

そう言って腰元から刀を引き抜くと、右手に持ち替えて歩き出す。

その刀を咲がチラリと見るのを感じて、杏寿郎はにっこりと笑った。

「咲、気にしなくて良いと言っているだろう?」

「は、はい」

咲が気にしていること。

それは、帰宅した夫から刀を受け取れないことだった。

その家々によってしきたりは異なるのだろうが、武家の妻は夫が帰宅した際に着物の袂で包むようにして刀を受け取り、帰宅の労をねぎらっていると聞く。

だが、片腕しか無い咲にはどう頑張ってもそれは難しく、だからといって剣士にとって何よりも大切な刀を片手で受け取るなどということは無礼に当たる。

そんな葛藤ゆえに、こうして時折気にしてしまっているのだ。

そんな咲に対して杏寿郎はいつも朗らかに笑いながら言う。

「咲に負担がかかるようなことはしなくて良いのだ。それに我が家はそういうしきたりよりも、妻のことを第一に考える家風。父上も、母上が体調を崩された時はよくそう仰られていた」

それより何よりな、と前を歩いていた杏寿郎が振り返り、じっと咲の顔を見下ろした。

「家に帰ると君がいてくれるというのは、何とも贅沢で幸せなことだなぁと、俺はしみじみ思うのだ!」

杏寿郎の太い腕が伸びてきて、咲の体をぎゅうっと抱きしめる。

「いつも俺の側にいてくれてありがとう、咲」

「杏寿郎さん…!!」

言葉では言い表せないような幸福感に包まれながら二人は廊下で抱き合う。

咲は、先日の洗濯物を干している時に感じたものより何倍も鮮明な杏寿郎の香りに包まれて幸せな気持ちに浸りながら、ぎゅうう、とその厚い胸板に頬をすり寄せる。

一方の杏寿郎も、腕の中にすっぽりと収まってしまう華奢な体を包み込むように抱きしめ背を丸めた。

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