第19章 その後のはなし
その顔があまりにも杏寿郎にそっくりだったので、咲が思わず見惚れていると、後ろから弾むような快活な声がした。
「いい心がけだ!だがな、その鬼は母上がもう倒しているぞ!!」
振り返ると、そこには隊服姿の杏寿郎が立っていた。
「父上!!」
桜寿郎が飛び上がって駆け寄って行く。
「母上が倒したのですか!?母上すごい!!お強いのですね!!」
杏寿郎の片腕に腰掛けるようにして抱き上げてもらった桜寿郎が、キラキラとした瞳で咲を見下ろしてくる。
「父上様が一緒に倒して下さったのですよ。母だけの力で倒した訳ではありません。不死川のおじさまや、炭治郎さん、禰豆子さん、善逸さん、伊之助さん…皆の助けがあったからこそです」
そう言って咲も立ち上がろうとするのを、杏寿郎が肩に手を置いて止めた。
「ただいま、咲。大事無いか?」
「おかえりなさいませ、杏寿郎さん。はい、お父様も桜寿郎もとても気を使ってくれるので、この通り何の不自由もしておりません」
「そうか、そうか。それは何よりだ!桜寿郎、父がいない間はお前が母上とお腹のやや子を守るのだぞ!」
「はい!父上!」
杏寿郎の大きな手でわしゃわしゃと撫でられて、桜寿郎は嬉しそうに笑った。
そんな幸せな思い出に浸っていると、玄関から杏寿郎の大きな声が聞こえた。
「ただいま戻りました!!」
咲達が腰を上げる間もなく杏寿郎が廊下を歩いてやって来る。
「ちちうえー!」
火凛がよちよちと小さな足で駆け寄っていくと、「火凛、ちちうえが戻ったぞ!」と杏寿郎の顔がデレッと溶けて、まるで宝物を扱うようにしてその小さな体を抱き上げた。
「杏寿郎、戻ったか」
「父上、ただいま戻りました」
奥の部屋で書き物をしていた槇寿郎も出てくる。
二人の孫を持ち、すっかり祖父と呼ばれるようになった槇寿郎ではあるが、その体格の良さは相変わらずで、時折桜寿郎に稽古をつけてくれるほどであった。