第19章 その後のはなし
槇寿郎に続いて、千寿郎も顔を出す。
「千寿郎!来ていたのか!」
「はい、兄上。お邪魔しています」
成人した千寿郎は、独立して近くの屋敷に身を移していた。
しかし、歴代炎柱の書を槇寿郎と共に整理するために、こうしてちょくちょくと実家を訪れているのだった。
千寿郎は剣士にはならなかったが、今は参謀役としてお館様の右腕となり鬼殺に尽力している。
それに、伊達に十年以上杏寿郎の指導を受けた訳ではないので、槇寿郎と共に時折桜寿郎の良い手合わせの相手になってくれていた。
「咲、桜寿郎、戻ったぞ」
「おかえりなさいませ」
二人の声が重なり、杏寿郎は嬉しそうにニッコリと笑う。
それから咲の膨らんだ腹と、たくましく育ちつつある息子の顔を見て言った。
「桜寿郎、父がいない間、皆のことを頼むぞ!」
「はい!父上!」
大きな声で返事をした桜寿郎の頭を、杏寿郎がその大きな手でわしゃわしゃと撫でて、太陽のように笑う。
それを見て咲も、大きなお腹を優しく抱くようにして微笑んだ。
あぁ、冬来たりなば春遠からじ。
あの辛い出来事の先に、こんなに幸せな日々がやって来ようとは思いもしなかった。
おじいちゃん、お父さん、お母さん、兄さん、お兄ちゃん、私は今、こんなにも幸せです。
(完)