第19章 その後のはなし
食事を終えると、さっそく露天風呂に入ろうということになった。
杏寿郎の浴衣を咲が用意していると、厠から戻ってきた杏寿郎は何故かじっとこちらを見たり目をそらしたりを繰り返している。
「杏寿郎さん?どうかされましたか?」
「う、うむっ!いや、あのな、咲、これは提案なのだが、よければ一緒に入らんか?」
「えっ!!?」
「晴れて夫婦になったのだ!…何も不都合はなかろう?」
「うっ…は、はい…確かに、そうですよね…!」
かぁーっと咲の顔が赤くなる。
だが、真っ赤になっているのは咲だけではなかった。
杏寿郎もまた、耳まで真っ赤にしていた。
それを見たら咲は何だか杏寿郎が可愛くなってきてしまって、恥ずかしいのもあったがこっくりと小さく頷いたのだった。
露天風呂は、離れの縁側から伸びる通路を渡っていった先にある。
数段の下り階段の下に脱衣所があり、その先に、見事な岩の露天風呂が広がっていた。
それは二人で入るには大きすぎるくらいの立派なもので、新緑の青々とした葉が透明な湯に映りこんで、とても趣のある素晴らしい光景を作り出していた。
そのあまりの風流さに、二人は感動してしばし恥ずかしさを忘れてしまったほどだった。
温泉の手前には小さな脱衣所も設置されており、一応は男女で区切られていたのだが、杏寿郎と咲は片方に一緒に入ることにした。
当初咲は、赤と青に染め抜かれたのれんの前で硬直したように立ち止まってしまったのだが、杏寿郎が肩を抱いて先導してくれたおかげで、頬を染めながらも何とかそれに続くことができたのだった。