第2章 逢魔が時
よほど強力なものらしく、炭治郎の鼻をもってしても、藤の花以外の匂いはほとんど嗅ぎ取れないほどであった。
咲自身の香りは、微かに、本当にほんのり香るくらいであった。
だがそれでもやはり、普通の人間の匂いとは全く異なっているものだということが炭治郎には分かるのだった。
「そうか。だからか」
どうりで匂いを嗅ぎつけた時、藤襲山の光景を思い浮かべてしまった訳だ。
「すごく強い匂いだね。どうりで、君が手を擦りむいていたのに血の匂いがほとんどしなかった訳だ」
「あっ……、香水キツすぎましたか?すみません……」
「えっ、あっ、いやいや!そういう意味じゃないんだ!ゴメン!全然キツくないよ!むしろすごくいい香り」
そう言って炭治郎は、クンクンと咲に近寄って匂いを嗅いだ。
「……!」
突然至近距離に寄ってきた炭治郎の行動に、咲は思わず赤面する。
炭治郎の方も、すぐに自分の行動を理解して、仰け反るようにして咲から体を離した。