第2章 逢魔が時
「それにしても、よくあんな森の中で気づきましたね」
今は布で覆っていない顔に、不思議そうな表情を浮かべながら首を傾げる咲に、炭治郎は少し照れたように鼻をこすりながら言った。
「俺は鼻が利くんだ。だからあの時も匂いで……」
と言いかけて、はたと炭治郎は言葉を止めた。
そう言えばあの時感じたのは、強い藤の花の香りだった。
だけどあの辺りに藤の花は咲いていなかった。
というよりも、その香りの中心は咲自身だったような気がする。
そしてそれは今も……。
「咲からは藤の花の匂いがするね。鴉達が持っているような匂い袋を、咲も持っているの?」
そう訊ねると、咲はポケットから小さなガラスの小瓶を取り出した。
「いいえ。私が持っているのは藤の花の香水です。もうお聞き及びかもしれませんが、私は稀血なのです。ですから鬼除けのために、しのぶさんが特別に調合してくださっているんです」
炭治郎と善逸は、彼女の小さな手の平に乗っている可愛らしい小瓶をまじまじと見下ろした。
それには薄紫色の液体が入っていて、咲の体から香ってくるよりも更に強い藤の花の香りを放っていた。