第17章 月がとっても青いから
「あ、あの、杏寿郎さん?」
先ほどは、着いてすぐにというのはいくらなんでも性急かと思った咲であったが、こう何度もタイミングを外されてしまうと困ってしまう。
そう思って咲がずい、と膝を少し進めると、それを見た杏寿郎の体がビクッと跳ねたように見えた。
だが、もしかしたら行燈に灯した蝋燭の揺らめきのせいかもしれないと思い、咲は口を開く。
「杏寿郎さん」
もう一度声をかけた時、今度は間違いなく、杏寿郎の体が跳ねた。
「む!ど、どうした咲っ!!そうだ、確か台所に芋けんぴもあったと思うから、俺が取ってきてやろう!!」
「い、いえ、もうお菓子は十分です。ありがとうございます」
「む、むぅ!では、茶を…」
「もう二杯もいただきましたので、大丈夫です」
「うぐ…!あっ、そう言えば千寿朗が、面白い本があると言っておったな!それを…」
わははは、と何故か大声で笑い始めた杏寿郎に、咲はギョッとして思わず自身の唇に指を立てて、
「杏寿郎さん、夜も遅いので…」
シーッ、と小さく息を吐くと、「す、すまんっ」と杏寿郎はシュンとうなだれた。
その縮こまった体を見て咲は思った。
一体どうしたというのだろう。
明らかに挙動がおかしい。
(やはり任務でのお疲れが溜まっていらっしゃるのだろうか…?)
今度はしどろもどろになってしまった杏寿郎を見て、咲もううむと首を傾げた。