第17章 月がとっても青いから
「夕飯は食べたのか?」
「はい。蕎麦を食べました」
「そうか、それなら良かった。どれ、大福をあげようか」
「えっ?!あ、ありがとうございます」
杏寿郎の影になっていて分からなかったが、脇に置いてあったらしい菓子鉢を持ち上げて杏寿郎が言う。
突然のことに、咲は少し面食らう。
今日、こんな時間になっても出向いてきたのは、先日の杏寿郎からの申し出にきちんと返事をしようと思ったからだ。
なので、その勢いをそがれたような恰好となる。
だが、確かに着いて早々に切り出すのも無粋だと思ったので、咲は懐紙に乗せて差し出された大福を手に取った。
「美味いか?」
「はい!」
それは咲のお気に入りの店のもので、この屋敷で杏寿郎に稽古をつけてもらっている頃はよく買ってきてもらっていたものだった。
もぐもぐと頬を膨らませて頬張っている咲を見て、杏寿郎は懐手をしながら微笑んでいる。
だが、大福を食べ終えた咲が話し始めようとすると、今度は「茶でも飲むか?」といそいそと茶を淹れ始めた。
そしてそれも飲み終えると今度は、「む!そう言えば金平糖もあるのだった!」と、色とりどりの星屑が詰まった小瓶を戸棚から出してくるという具合だった。