第17章 月がとっても青いから
こんなにアタフタとしている杏寿郎は、今までに見たことがない。
「杏寿郎さん、もしかしてお疲れですか?すみません、私が伺うと言ったから、こんな遅い時間まで起きて待っていてくださったんですよね?」
「い、いやっ、そういう訳ではない!大丈夫だ、俺は別に疲れてはおらんぞ!睡眠も十分取った!」
「ですが…先ほどから、いつもと少しご様子が違うようですので…」
「む、むぅ…」
ここまで大げさな反応を示していれば、当然杏寿郎にも自覚はあるらしく、父の槇寿郎がやるように「むむ」と顔をしかめた。
むむむ、と袖に両手を差し入れて腕組みをしている杏寿郎に、咲がちょっと見上げるようにして目を向けた。
「あの…杏寿郎さん、もしお疲れでなければ、縁側でもう少しだけお付き合いいただけませんか?」
そう言って咲はスラリと障子を開けると、落ちてきそうな月を見上げた。
縁側に並んで腰かけると、幾分杏寿郎の様子も落ち着いたようで、晴れ渡った夜空を大きな瞳で見上げていた。
「何だか、こうして一緒に縁側に座るのは久しぶりですね」
咲がそう言うと、
「そうだな。君も忙しいから、中々我が家に寄っている時間も取れないからな」
と、ようやく普段通りの返事が返ってきた。
その横顔を見て安心した咲は、(今度こそ)と決心を固めて、縁側からぶら下げていた足を上げると縁側に正座した。
「杏寿郎さん、今日は、先日のお返事をさせていただきたく参りました」
居住まいを正した咲の姿、その真剣な声に、ハッとしてついに杏寿郎も腹をくくった。