第17章 月がとっても青いから
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届け物を無事に終えて、咲は煉獄家への道のりを急いでいた。
思ったよりも時間がかかってしまい、空にはすっかり月がのぼっていた。
まるで今にも落ちてきそうな、大きな月の夜だった。
煉獄邸に到着すると、屋敷はひっそりとしてすでに明かりが消されていたが、門は開いていた。
自分のために開けておいてくれたのかもしれないと思い、咲は静かに門をくぐり抜けると、すでに就寝中かもしれない家人を起こさないように、そっと庭へと回り杏寿郎の部屋に向かった。
杏寿郎の寝室にはぼんやりと行燈の灯りがともっていて、見慣れた人影を障子に映し出していた。
「……咲か?」
人の気配を察して、中から声がかけられる。
「はい。杏寿郎さん、遅くなり申し訳ありません」
「入っておいで」
咲は沓脱石に草履を揃えて縁側に上がると、膝をついて、ス、スススと障子を開けた。
中には着流し姿の杏寿郎が端座していて、行燈のオレンジ色の灯りに照らされたその姿はハッとするほど凛々しかった。
「疲れただろう。任務、ご苦労だった」
「はい。杏寿郎さんも、お疲れ様でございます」
両手をついて頭を下げた咲に、杏寿郎はにっこりと微笑む。
その笑顔を見て、咲は内心ホッとした。
今朝方会った時に杏寿郎の様子がおかしかったから、任務で疲れているのかと心配していたのだ。