第17章 月がとっても青いから
宇随と別れた後、杏寿郎はドキドキドキと鼓動する心臓が、まるで自分のものではないかのような感覚に包まれながら、自宅への道を歩いた。
地面を踏みしめているはずの足が、何故だかフワフワと雲を踏んでいるようで心もとない。
この間の、蝶屋敷の病室においての告白。
あれは正直言って自分でも全くの想定外であった。
杏寿郎の予定では、自身の気持ちを打ち明けるのは咲の追っている鬼を倒してからだと決めていた。
自分がこの想いを打ち明けることで、彼女の仇討ちの邪魔になるようなことがあってはならないと、そう思っていたからだ。
だがあの日蝶屋敷の病室で、彼女の黒い瞳の中に燃え盛る炎を見た時に唐突に思ったのだ。
今言わねば、と。
彼女の仇討ちの邪魔になるから言わない?
もうそんな言い訳をするのはやめよう。
好きなのだ。
彼女のことが。
今すぐ叫び出してしまいたいほどに。
もしもこのまま想いを伝えぬ内に彼女の身に何かあったりしたら……。
そんなことは絶対に嫌だ!!
もしそんなことになったら、俺は悔やんでも悔やみきれないだろう。
そう思ったらもう、今まで長年かけてゴチャゴチャと考えていたことなど吹き飛んでしまって、気付いたら喉の奥から言葉が飛び出していたのだ。
(…結局俺は何だかんだ言いながら、咲に振られるかもしれないのが怖くて、あれこれと理由をつけて先延ばしにしていただけなのかもしれないな)
いまだにドキンドキンと脈動している己の胸を押さえて、杏寿郎は苦笑いしたのだった。