第17章 月がとっても青いから
「杏寿郎さんも、お屋敷に戻られますか?」
パッ、と視線を向けられて、妙にソワソワして落ち着かない様子で立っていた杏寿郎は、またもや後ろ向きに倒れてしまいそうになる。
だが、そう何度もみっともない姿を見せる訳にはいかないので、炎の柄に染められた脚絆を履いた両足で、ぐっと大地を踏みしめた。
「あ、あぁ!俺も家に帰る!今夜は急ぎの任務が入らなければ、そのまま家で過ごす予定だ!」
「そうですか。それでは私も任務が終わりましたら、そちらへ伺います」
「う、うむっ、そうかっ!!」
杏寿郎が頷くのを見ると、咲は宇髄にも再度ペコリと頭を下げて、「では、失礼いたします」と道を走って行ったのだった。
その後ろ姿をぼーっと見つめ続けている杏寿郎の肩に、宇髄がまるでのしかかるようにして腕を回して言った。
「おいおい煉獄~、お前さっきの慌てぶりは何だ?」
何だ?と聞いておきながら、すでに何事かを察しているらしい宇髄は、その整った顔にニマニマとした笑みを浮かべている。
(十中八九、咲と何か進展があったな)
鬼殺の事となると、清々しいほどの豪快さと思い切りの良さを見せるこの同僚の、全身がむず痒くなるような恋を長年見守ってきた宇髄は、この変化の片鱗に遭遇して嬉しくて仕方がないのだった。